大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 平成3年(行ツ)58号 判決 1992年10月06日

神奈川県藤沢市亀井野四〇三番地

上告人

舩木元旦

右訴訟代理人弁護士

増岡章三

對﨑俊一

増岡研介

同弁理士

早川政名

東京都千代田区霞が関三丁目四番三号

被上告人

特許庁長官 麻生渡

右当事者間の東京高等裁判所平成二年(行ケ)第一一二号審決取消請求事件について、同裁判所が平成二年一二月一三日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立てがあった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人増岡章三、同對﨑俊一、同増岡研介、同早川政名の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。

よっで、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 貞家克己 裁判官 坂上壽夫 裁判官 園部逸夫 裁判官 佐藤庄市郎 裁判官 可部恒雄)

(平成三年(行ツ)第五八号 上告人 舩木元旦)

上告代理人増岡章三、同對﨑俊一、周増岡研介、同早川政名の上告理由

一  原判決は、上告人の実用新案登録出願にかかる考案につき、実用新案法第三条二項の規定により実用新案登録を受けることができないとした特許庁の審決を是認したものであるが、以下のとおり判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違背及び理由不備の違法があるから、破棄されるべきものである。

二  判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違背

1 原判決は実用新案法第三条二項の解釈を誤ったことにより同項に違背するものである。

(一) 実用新案法第三条二項は、実用新案登録出願前にその考案の属する技術の分野における通常の知識を有する者が同条各号に掲げる考案(以下、単に公知例という)に基いてきわめて容易に考案をすることができたとき(いわゆる進歩性がないとき)は、出願にかかる考案については実用新案登録を受けることができない旨定めている。

ところで、右進歩性の有無の判断にあたり、出願にかかる考案と公知例とを対比するとき、対比されるのは考案の構成ではあるが、言うまでもなく考案の構成は考案の目的及び効果と密接不可分であるから、例外的に構成のみを対比することにより一見明白に判断可能な場合を除けば、目的ないし効果を参酌しないで対比することはできない(特許法第二九条二項の解釈に関し、青林書院発行中山信弘編著注解特許法第二版一九九頁(3)、有斐閣発行吉藤幸朔著特許法概説第八版九六頁以下)。

このことは、そもそも考案の構成というものが特定の目的のために特定の効果を期して用いられる技術的手段であることに鑑みれば至極当然のことであり、言うまでもないことであるが、参考までに裁判例を挙げれば、別紙に掲げた次の裁判例(特許法第二九条二項に関する)も右の理を示している。

東京高判昭五〇・四・八(判タ三二五・二二三)

(二) 右のとおり、考案の構成を対比する場合においてさえ目的効果を参酌する必要があるのであるから、まして、公知例中に考案と無関係にたまたま図示された部分に基づいて対比する場合には、少なくともその図示された部分のもつ技術的意味(目的ないし効果)を考慮することなしに対比できるはずがないし、そのように対比されるべきでないことは当然である。

(三) しかるに、原判決が是認したところの特許庁審決は、公知例中に考案と無関係にたまたま図示された部分のもつ技術的意味を全く考慮することなく対比したものであり、原判決はそのような審決の対比方法そのものを是認していることが以下のとおり明らかであるから、実用新案法第三条二項の解釈を誤り、同項に違背するものである。以下、これについて述べる。(なお、右の図示された部分が考案と無関係のものであることは、原判決書第二〇丁表第六行目以下に「前掲甲第三号証によれば、第一引用例の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の項には、ガーター下端部の構造について何らの記載も認められないが」と記載されていることからも明らかである。)

本件において主として争われたのは、原判決書第一九丁裏第4項にも記載されているとおり、<1>本件実用新案登録請求の範囲に言う「左右側面の高さの途中に段部を形成した支持材」が第一引用例に示されているか否か、<2>本件実用新案登録請求の範囲に言う「下地材の上面と野地材の下面との間に空間部を構成する」点が第一引用例に示されているか否か、<3>本件実用新案登録請求の範囲に言う「屋根板を支持材の上面に固定する」点が第一引用例に示されているか否かという三点である。

そこで、まず右の<1>の点について述べると、本件実用新案登録請求の範囲に言う「支持材」が「支持を目的ないし効果とする」部材であることは語句自体の意味からも明白なのであるから、第一引用例に「支持材」が示されているか否かの判断は、第一引用例に示された部材が支持を目的ないし効果とするものか否かを判断しないでは出来るはずのないものである。

同様のことは「段部」についても言える。すなわち、本件実用新案登録請求の範囲に言う「段部」は、「野地材の側縁下面を段部の上面で支え、下地材の上面と野地材の下面との間に空間部を構成する」ために設けられるものであることが明らかなのであるから、第一引用例にたまたま段状に見える部分が図示されているとしても、その段状の部分がどのような技術的意味を有するのかを判断しなければならない。

しかるに、原判決は、このような判断を全く行なっていないのである。すなわち、右「段部」に関して言えば、<1>「野材の側縁下面を段部の上面で支え」るために設けられた段状の部分なのか否か、また、<2>「下地材の上面と野地材の下面との間に空間部(ここに言う空間部とは本願の目的である遮音・断熱効果を得るに足る程度の空間部である)を構成する」程度に高さのある段状の部分なのか否かについて判断しなければならないにもかかわらず、ただ単に<1>第一引用例にはガーターの左右側面下端部の二重折返し部分の上面に断熱防音材が載っていないものも図示されているが載っているものも図示されていること、<2>右二重折返し部分の立ち上がり部分は、防音材と野地板との間に「隙間」ができる程度の高さがあることを認定しただけであり、右二重折返し部分のもつ技術的意味(目的ないし効果)について何らの判断もしていない。

繰り返しになるが、このような判断なしに対比が行なえるはずがなく、実用新案法第三条二項は当然に右の判断を要求しているのであって、原判決は同項の解釈を誤ったものである。

2 右のとおり原判決は実用新案法第三条二項に違背するが、これにより判決に影響を及ぼすことは明らかである。

なぜなら、もし原判決が同項の解釈を誤らなければ、第一引用例中に本願実用新案登録請求の範囲中に言う「左右側面に段部を設置した支持材」、「空間部」及び「屋根板を支持材の上面に固定する」構成が何ら示されていないことが明らかであり、従って本願考案が第一ないし第三引用例からきわめて容易に考案できるものであるとした本件審決が取り消されるべきことが明らかだからである。

三  理由不備

前述のとおり、出願にかかる考案と公知例とを対比するにあたっては、公知例中に示された部分のもつ技術的意味(目的ないし効果)を判断することなしに対比することはできず、上告人が原審において右判断を求めているにもかかわらず、原判決はこの判断を遺脱した。

この遺脱により判決に影響を及ぼすことは前記(二、2)のとおり明らかである。

以上

(添付書類省略)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例